ハミッドと出会ってから、毎日ハミッドの家に遊びに行った。
彼の家に行くと、いつもハミッドの従兄弟のサイッドが待っていてくれ、
泡をたてたベルベル式のお茶を一緒に飲みながら、バンジョーとジャンベを弾いてくれた。
サイッドは「シンジが家族になって、一緒にここに住んでくれたらなぁ。」といつも言ってくれた。
　
ハミッドの家を訪れると決まって見にくる彼の親類の子供達と毎日遊び、お姉さんや伯父さん達と一緒に食事をした。お姉さんは「あなたと一緒にいると幸せな気分になれるの。」とまで言ってくれた。
毎日のように御飯をごちそうしてくれた。遠慮していると、怒られた。
　
ハミッドは仕事の依頼がきても、それを断ってまで一緒にいてくれた。
まるで昔から知っている大事なお客さんが訪ねてきているかのように。
　
彼の家族の一員のように扱ってくれ、自分も彼の１００人以上の家族に囲まれて生活するのが楽しかった。
　
彼は裕福ではない。むしろ、あまりお金は持っていない。
それなのに、彼は一度もお金の事を口にした事はなかった。
モロッコで話しかけてくる人は旅行者のお金目当てが多いが、彼は違った。
　
　
　
そして今日、次の目的地に行くために彼の家族とお別れをしないといけない。
　
　
たった数日間一緒に居ただけなのに、こんなに寂しい思いをするなんて。
　
サイッドは「家族になって、一緒に住んでくれたらなぁ。」と何度も呟いた。
彼の目にはこぼれそうなほど奇麗な涙がたまっていた。
　
ハミッドは「ファミリーだ。ファミリーだ。」と何度も言ってくれた。
そうだ、血が繋がっていなくても、心は最初から繋がっていた。
言葉が通じなくても、お金の話をしなくても、
家族と思えるほど心から人は通じ合えるものなんだ。
　
新しい家族が出来たっていうのに、こんなに早く別れがきてしまった。
　
最後にハミッドとサイッドはバンジョーとジャンベを弾いてくれた。
最初に聴いた時とは違い、その音は悲しみに満ちていた。
１００のお別れの言葉よりも、彼等の音楽は心に染みた。
　
　
辛い。
　
　
ここを離れたくない。
この人達と一生一緒に暮らしたい。
　
でも、まだ大事な旅の途中だ。
　
サイッドは「Please don't forget us（僕たちの事を忘れないで）」と何度も言った。
　
決して忘れないよ。サイッド。ありがとう。ハミッド。
　
何度もお礼を言い彼等の家を出た。
　
また長い旅が始まった。
次はエジプトだ。

今日はハミッドとサイッドと一緒にワルザザード近くにある、フィントと呼ばれるオアシスまで足を伸ばした。
　

　
「４年ほど雨らしい雨は降っていないんだ」とサイッドは説明してくれた。
今ある水は全て湧き水で、川上から流れてくる水は枯れ果てているらしい。
温暖化のためかどうかはわかならい。
しかし、世界の所どころで「今までこんな事はなかった。」と言う言葉を聞いた。
　

　
枯れた川を渡る女性がいた。
昔はたくさんの水が流れていたのだろうか。
　

　
この日もハミッドはバンジョーを持ってきて、山の上で弾いていた。
平和な風景を飾るバンジョーの音が山の上から響き、初めて来た場所なのに心がオアシスと繋がっていく。
　

　
オアシスを山の上から眺めると、向こう岸に村がある。川で女性が並んで洗濯をしている姿もあった。
もし、湧き水も出なくなったらヤシの木は枯れ果て、村の人々もこの美しいオアシスを離れなければならないのだろうか。

　
ハミッドが少し用事があるので、用事をすませている間にハマムにでも行ってくれば？と言われる。
　
聞くところによると、ハマムは岩盤浴と韓国式アカスリとサウナと銭湯を合わせたような場所らしい。
　
　
で、
　
　
入ったはいいけどシステムがわからないから、どうすりゃいいのかなーって思って周りを見渡してたら働いているオッサンが、こっちに来い！ってジェスチャーしてる。
　
自分はパンツ一丁。オッサンもパンツ一丁。
自分はボクサーパンツなんだけど、オッサンは白いブリーフ。
　
そんなブリーフ一丁で働いているオッサンが
こっちに来てここに座れ！って激しくジェスチャー。
　
行ってみると、そこには客の太ったオッサンが気持ち良さそうに寝ていたわけだ。
　
　
　
で、
　
　
　
今からやるから見ていろ！って働いているオッサンが言うから見物していたら、働いているオッサンが手に石けんを塗りたくって、太ったオッサンの上に被さるように体をヌルヌルしはじめた訳だ！！
　
　
　

　
　
太ったオッサンは気持ち良さそうにされるがままにヌルヌル。
太ったぽっこりお腹の上を石けんでヌルヌルした手がヌルッと滑る。
白いブリーフのオッサンの手がまるでアイススケートの様に太ったオッサンの体の上を滑る滑る。
　
んで、ひっくり返って、後ろもヌルヌル。
　
その後にアカスリを手にはめてゴシゴシ。
ひっくり返って、前もゴシゴシ。
　
で、お前そこに寝てみろ！って働いているブリーフ一丁のオッサンがジェスチャーするわけだ。
　
いや、オッサン、俺はそんな、違うんだ。
違。。。
　
　
　

　
　
ヌルッヌルッ。
　
ひっくり返って後ろもヌルヌル。
そしてアカスリでゴシゴシ。
ひっくり返って後ろもゴシゴシ。
　
んで、すっきりしたべ！ってポンって背中を叩かれて５００円取られたのさ。
　
　
で。
　
　
考えてみると、男にヌルヌルするのは女の仕事だっていうのはエロい日本人の考え方なんだよ。
モロッコではオッサンにヌルヌルされるのは別に嫌らしい事じゃなくて、むしろ健全。
男同士で手を繋いで歩いたり、挨拶でほっぺたにキスを４回もするモロッコ人にとっては、別に普通。
　
で、俺が間違っていたんだと。
　
オッサンにヌルヌルされるのは、汚らわしいと思っていた俺が間違っていたんだと。
ヌルヌルするのは女だろうという固定概念を持っていた俺が間違っていたんだと。
　
自分に言い聞かせている次第です。
　

ハミッドがワルザザードの近くにある世界遺産、アイット・ベン・ハドゥまで連れてきてくれた。
ベルベル人が作ったカスバと呼ばれる要塞集落だ。
　

　
今でもこのカスバには数家族が住んでいるらしい。
　

　
ハミッドはバンジョーを持参して、アイット・ベン・ハドゥの中で演奏していた。
iPodもいいが、生のバンジョーの演奏を聴きながらベルベル人の歴史的な集落を歩いてまわっていると、彼等が作った世界観の中にドップリ浸かる事ができた。
ハミッドはやる事が粋だ。
　

結婚式で踊りと歌が一息ついた時に、ハミッドがバイオリンを弾いて花嫁と花婿を祝福した。



彼は音楽の学校には通った事がない。
音楽や語学などはどこかで学ばないと身に付ける事ができないと思いがちだが、モロッコの人は違った。
学校に通って学ばなくても、本当に必要なら人間は技術を身につけてしまうものなのだ。

モロッコの人々は音楽に優れていると聞いていたが、
ウェディングのパーティでこんなに盛り上がるなんてビックリだ。

大人から子供まで、バンドが演奏する音に合わせて踊りまくってる。

結婚式の２日目。

普段は入る事の出来ない女性の部屋に入れてもらった。
ハミッドとサイッド以外一人も大人の男性がいないので戸惑ったが、
女性達は「ウェディングの時はいいのよ。」と言ってくれた。

部屋の中で夜のウェディングの儀式を待つ花嫁を女性達が歌って祝福する。

とにかく明るいモロッコ女性が歌って踊ると、激楽しい。

ハミッドの家族の子供達と遊んだ時の動画。
シャボン玉を作ってあげたら、そんなに？ってほどはしゃいでいた。
シャボン玉を見た事ねーのかな？

次の日もハミッドの家に遊びに来た。

昼前からきたので「御飯を一緒に食べよう」と言われたので、ごちそうになることにした。

　
というか、ハミッドの家を訪れた時はいつも御飯をごちそうになっている。
彼等と一緒に食事をするのが気持ちがいいので、ついつい彼の好意に甘えてしまう。
　
モロッコの食事は基本的にどこも美味しいが、ハミッドが用意してくれた家庭料理はそこらへんのレストランで食べる食事よりもさらに数倍美味しい。
　
今日はカレーのような味付けのチキンをパンで挟んで食べた。
ナイフやフォークは使わない。
手でチキンをちぎって、パンに挟んで口に入れる。
　
しかも、彼はなんの見返りも求めない。ただ「クリ！クリ！（食べて。食べて）」と勧めるだけだ。
　
ちなみに彼に「ベルベル人は何時頃に御飯を食べてるの？」と聞くと、
「いつでも」と答えた。
ベルベル人の食事のリズムは朝、昼、夜などの決まった時間ではないらしい。
腹が減ったら食うと言っていた。朝でも昼でも、夜に寝ていても腹が減ったら食うと言う。
腹が減っていなかったら１日１食の時もあるし、５食の時もあるらしい。
　
そのうち、また彼の家族の子供達が日本人を見に集まってきたので一緒に遊んだ。
　
一通り遊んだ後に、昨日カメラで撮影した動画を見せてあげると、
みんな真剣にカメラを覗き込んだ。
　

　
ただ、ハミッドと彼の家族に触れ合っているだけで、こんなに幸せな気持ちになるのはなんでだろう。

ハミッドの家を訪れた夜、彼の家族のウェディングを見る事ができた。
　

　
真ん中の赤い布がかかっている机みたいな場所に、花嫁が入っている。
緑の布を被った女性が、親類や近所の人からのプレゼントを頭の上に持ってきて、
誰からの贈り物かを叫んでいた。
　
凄い量の贈り物だ。
贈り物が多過ぎて、何時間もこの儀式が続いていた。

「お金持ちの人は家を一軒贈る事もあるんだよ。」とハミッドの従兄弟のサイッドが教えてくれた。

しかも、こうした彼等のウェディングは１週間続くと言う。
１週間かけて家族みんなで御飯を食べ、歌って踊り、花嫁へのプレゼントを渡す儀式をする。
夏になると、毎週のように結婚式があるので大変だとサイッドは言っていた。
　
周りで贈り物を渡されるところを見守る家族や近所の女性達。
たぶん、この儀式を見ることで自分も早く結婚したいと思うのだろう。

「明日も結婚式は続くから、また来て。」とハミッドに誘われたので、
明日もお邪魔する事にした。