ガイドの言った通り、夜中の2時半にたたき起こされた。
当然だが、辺りは真っ暗。
食事をとったらすぐに出発するという。
ガイドが山頂を指差して、「あの山の上に3本の木が見えるでしょ?そこがゴールだから。」
うーん、霞んで見えないですけど。
ここから地獄の登頂が始まる。
ペルーは南半球なので、8月は真冬だ。
とにかく寒い。真冬の真夜中だから寒いのは当たり前だ。
街灯など無いので、月の明かりだけが頼りだ。
月で青白く照らされた石だらけの山を登って行く。
少しでも足を踏み外したら、崖の下に落ちてしまうほど道は狭かった。
舗装されていない道には大きい石が積み上げてあるだけなので、道を歩いていると言うよりも、大きな石を渡り歩いている感じだ。
1歩1歩の足にかかる重みがすごい。傾斜が急だからだろう。歩いていると言うよりも、足の力を総動員して登っている感じだ。
このトレッキングに参加するときに山登りの装備の必要性はあまり説明されなかったが、かなり重装備でこないとこの真冬の山は超えられない。
間違って軽装備で来てしまった人はどうするんだろう?
日中と夜の気温差はかなり激しい。
日中に歩いているときは、シャツ1枚で大丈夫な時もあるぐらいだ。
夜の谷底は何枚着ていても寒い。
1歩、1歩、確実に山を登るが、全くゴールが見えてこない。
かなり激しい運動なので、2時間ほど歩いた後、汗でシャツがぐっしょり濡れてしまった。
しかし、シャツを脱いだら真冬。凍えてしまう。
仕方ないので、そのままの状態で山を登り続けた。
山の上の方に山頂らしき場所が見えたので、もうすぐかな?と思って頑張って登ってみるが、山頂だと思った所まで登りきると、さらに上に山頂らしき場所が見える。それの繰り返しだ。
何時間か歩いた後、さすがにもうすぐ山頂まで着くだろうとガイドに、
「後、どのぐらい?」と聞いてみると、
「もうすぐだよ。今、3分の1ぐらいかな。」と言われる。
全然もうすぐじゃねーし。
「地元の人はこの山を1時間半あれば登っちゃうよ。」と言われる。
うーん。都会で生きていると、人間の本来の強さみたいなものを失っていくのかもしれない。
他のトラベラー達はほとんど話が出来ない状態で、ただ淡々と山道を登っていく。
単調な道を登りながら、谷底の村の事を考えてみる。
彼等のガスや電気も無い生活。夜にはロウソクの灯りを頼りに動く。
薪で火を炊いてご飯を作り、暖をとる。
スーパーなどないので、スーパーのある街まで行くのに山を超える。
狭い山道は車やバイクなどが使えるはずもなく、歩いて登らなければならない。
都会の標準的な生活に比べると全く不便だ。
しかし、不便にも関わらず、それが不幸せかと言ったらそうでもない。むしろ、村人達は幸せそうだった。
便利と幸せは比例しない。
旅に出てから何度か感じた事だが、このトレッキングに参加して確信した。
人は便利になると楽にはなるが、幸せになるとは限らないのだ。
楽になった分、いろいろな能力を無くしていくようにも思える。
そんな事を考えながら山道をひたすら登っていく。
永遠に続くかと思ってしまうほど、寒い長い道のりが続く。
どこまで登っても道は急勾配で、1歩1歩の足の筋肉にかかる重量は変わらない。
それからさらに数時間。
朝日が昇り初め、コルカキャニオンの谷にまぶしい光が差し込み始めた頃、やっと山頂に到着した。
トラベラー達と一緒に歓声をあげて喜ぶ。
「事前にどれだけ大変か言っておくべきだよ。。。」と他のトラベラーも言っていた。
山登りに慣れた人もいたが、それでもかなりキツかったらしい。
やり遂げた感でかなり気持ちいい。参加して良かったと心から思う。
遅めの朝食を食べながら、今回のツアーの感想を他のトラベラー達と話しながら、大変だったけど良かったよねという結論に達した。
そこにガイドが来て、
「お疲れー。それじゃこれからコンドルを見にいきまーす。」
ええーーー。もういいよー。
結局、見に行ったけど。
コンドルの右にかすかに丸い虹が見えた。