2008-3 月- 1 22:17:28
出会いと別れ。<モロッコ、ワルザザード>
ハミッドと出会ってから、毎日ハミッドの家に遊びに行った。
彼の家に行くと、いつもハミッドの従兄弟のサイッドが待っていてくれ、
泡をたてたベルベル式のお茶を一緒に飲みながら、バンジョーとジャンベを弾いてくれた。
サイッドは「シンジが家族になって、一緒にここに住んでくれたらなぁ。」といつも言ってくれた。
ハミッドの家を訪れると決まって見にくる彼の親類の子供達と毎日遊び、お姉さんや伯父さん達と一緒に食事をした。お姉さんは「あなたと一緒にいると幸せな気分になれるの。」とまで言ってくれた。
毎日のように御飯をごちそうしてくれた。遠慮していると、怒られた。
ハミッドは仕事の依頼がきても、それを断ってまで一緒にいてくれた。
まるで昔から知っている大事なお客さんが訪ねてきているかのように。
彼の家族の一員のように扱ってくれ、自分も彼の100人以上の家族に囲まれて生活するのが楽しかった。
彼は裕福ではない。むしろ、あまりお金は持っていない。
それなのに、彼は一度もお金の事を口にした事はなかった。
モロッコで話しかけてくる人は旅行者のお金目当てが多いが、彼は違った。
そして今日、次の目的地に行くために彼の家族とお別れをしないといけない。
たった数日間一緒に居ただけなのに、こんなに寂しい思いをするなんて。
サイッドは「家族になって、一緒に住んでくれたらなぁ。」と何度も呟いた。
彼の目にはこぼれそうなほど奇麗な涙がたまっていた。
ハミッドは「ファミリーだ。ファミリーだ。」と何度も言ってくれた。
そうだ、血が繋がっていなくても、心は最初から繋がっていた。
言葉が通じなくても、お金の話をしなくても、
家族と思えるほど心から人は通じ合えるものなんだ。
新しい家族が出来たっていうのに、こんなに早く別れがきてしまった。
最後にハミッドとサイッドはバンジョーとジャンベを弾いてくれた。
最初に聴いた時とは違い、その音は悲しみに満ちていた。
100のお別れの言葉よりも、彼等の音楽は心に染みた。
辛い。
ここを離れたくない。
この人達と一生一緒に暮らしたい。
でも、まだ大事な旅の途中だ。
サイッドは「Please don't forget us(僕たちの事を忘れないで)」と何度も言った。
決して忘れないよ。サイッド。ありがとう。ハミッド。
何度もお礼を言い彼等の家を出た。
また長い旅が始まった。
次はエジプトだ。